脳出血後遺症、言語障害からの完全復活

喋れない患者様との出会い
今から20年以上前、6年間の修行を終えてとある治療院に勤務していた時の話です。
鍼灸マッサージについては6年間修行をしたので一通りの技術をマスターしておりましたが、機能訓練指導員としてはまだ修行中の身であり専門の治療院に勤めている時の話です。
ある男性の患者様が右半身麻痺の状態で足を引きずりながら治療院に来られました。
この道15~20年のベテランがひしめく治療院で、何が気に入ったのか毎回私の事を指名してくれる患者様でした。
いろんな人のマッサージを受けて最終的には私に収まったので、マッサージの相性が良かったのかもしれません。
話すことができない
一つ大きく他の患者様と違うところは、「声が上手く出せない。」という点でした。

話が上手く出来ないだけなら特に気にはしないのですが、この患者様はとにかく私に喋りかけてくるんです。
しかもその話の内容がほとんどと言っていいほど聞き取れませんでした。
ろれつも回っていないので話の意味は全く分からず、会話など当然成立しません。
マッサージは指で合図する
頭のしっかりした方で、マッサージをして欲しいところは指で合図されますので、何処をマッサージして欲しいのか、そういうコミュニケーションはジェスチャーでとれました。
20年以上前の話ですが、この患者様の事は昨日の事のように覚えております。

脳出血後遺症という病気は医学書でしっかり勉強してましたのでよく分かっていたのですが、実際に自分が責任もって治療とするという事は初めてです。
施術をしていても半身麻痺で固くなっている筋肉を患者様が的確に指でさして教えてくださるので、マッサージをする上で困る事は何もありません。
鍼灸マッサージのツボと呼ばれるところは経験的な要素が強く、しかし、患者様が不快に思われていたり押して欲しいところと殆んど一致します。
患者様のマッサージして欲しいところは的確にツボと一致していましたので、気になるところを長めにマッサージするようなイメージです。
マッサージについてはよく理解されているようでしたので、本人の指示通りにそこをゆっくりと丁寧に揉み解しました。
ずっと喋りっぱなしだが聞き取れない
特徴的だったのは、マッサージを受けている間、その患者様はずっとしゃべり詰めだったということです。
言語障害があるので話の内容は全く聞き取れないのですが、一方的に話し掛けられるのでとにかくこちらも何か返さないといけないと思い真剣に話は聞いておりました。
患者様もご自身で色々考えて行動されている場合があり、きっと何か目的と意図があって喋っているのだろうなというのは直感で感じておりました。
でも、何度も患者様が訪れる中で話を聞いていると、少しずつですが話が出来るようになっているのが分かるのですよね。
ひと言、ふた事であれば聞き取れる言葉が出てきておりました。
少しずつ言葉を拾って、徐々に会話が成立し出したのが印象的でした。
喋れるようになりました、普通に歩けました
そうこうしているうちに半年の月日が流れました。
患者様の下肢を引きずるような歩き方は徐々に治まり、スタスタ歩くようになられました。

それと並行するように会話も少しずつですが出来るようになり、言葉も別人のように聞き取れるようになりました。
会話が聞き取れるようになったタイミングで患者様から「だいぶ身体が回復した、ありがとう。」と言われました。
なぜ感謝されているのか
お礼を言われるほど特に特別なことをした感覚はなかったので 、自分が何の役に立っていたのか直接聞いてみる事にしました。
そうすると、意外な答えが返ってきました。

君のお陰でだいぶ回復したよ、ありがとう!

いえいえ、それほど変わった事は出来なくて申し訳ないです。

ワシにとっては凄く有難い存在だった。

ひとつお聞きしたいのですが、一体私は何の役に立ったのでしょうか?

実は、松川さんに話し掛けて喋る練習をしていたんだよ。

「そうだったんですね!納得しました!

上手く話せないし家族に話し掛けるのは恥ずかしくて。

こうやって普通に会話が出来るようになる日がきて嬉しい限りです!

どんな運動をするべきかも的確なアドバイスが有難かった。

運動指導は年齢問わず日課のようなものですからね!

だから、とても感謝している。
さらに話をしていると歩行も上手く出来るようになり、毎日犬の散歩をしてるようでした。
ホントに前向きな人だなと感心します。
大きな病気を発症してもそれに立ち向かう勇気が素晴らしいですし、この患者様はご病気を克服したといえるのではないかと思いました。
独自のリハビリメニュー
ご自身でとても頑張られる方で、病院を退院した後自分なりにリハビリのメニューを組み立て、その中にマッサージを取り入れて私と喋るというリハビリも組み込まれていたようです。
もちろん少し話せるようになってからは聞かれたことにたいしてアドバイスはしております。
しかし、回復するためのプランを大筋でご自身で立てていた訳ですから大したものだなと感心します。
少し発音しずらい言葉もあるようですが、この頃には患者様の喋る能力と歩く動作は病気をしていたと言われない限り、全くわからない程度にまで回復しました。
勉強になることが沢山ありました
自分は特に何か手伝えたという意識は薄いのですが、患者様の脳梗塞からの回復の手助けが出来たので良かったなと思います。
リアルな麻痺からの回復は機能訓練指導員として、反対に教えられることが色々あったと感じております。
話が出来るようになったので、「どんなリハビリをしていたのか。」「どのような回復の過程を経験したのか。」いろいろ話をしながらその後も施術を続けていきました。
脳梗塞や脳出血には兆候がある
話の中で気になったのは、脳梗塞で倒れる直前の症状です。
脳梗塞や脳出血で倒れられた患者さんは突然倒れたとほとんどの方が言われます。
この患者さんも例外ではなく突然倒れたと言いました。
しかし、「よく考えてみたらその日は自転車に乗っていたらふらふらして真っ直ぐ前に進めなかった。」と言われました。
脳出血や脳梗塞は実際にそれが起こる直前は何かしらの前兆があるのに気づいてみえない方が多いようです。
子供の頃に脳梗塞の症状に気がつき、本人様は「大丈夫、大丈夫」と言われますが明らかにおかしいので救急車を呼んだという経験があります。
その時は脳梗塞で早めに処置を行ったので軽く済みました。
努力が報われた時の達成感は半端ない
脳梗塞の後遺症で言葉がでなくなった場合、また喋れるようになるための最善の策はたくさん声を出して喋る事なのでしょうね。
実際に喋れるようになった患者様の回復の過程やリハビリに対する思いを聞くと、努力が報われた時の達成感は半端ないのだろうなと感じます。
この話は治療院に在籍している時のエピソードですが、訪問医療マッサージの看板を立てて仕事を始めてからはより強く努力とやる気の大切さを痛感します。
脳梗塞や脳出血の患者様は回復する要素をたくさん持っていますので、残っている機能をいかに活用してリハビリを行っていくかを考えた方がよいでしょう。
毎日単調で面白みの少ない運動するということは過酷で大変ですが、脳梗塞や脳出血の方はリハビリとの相性はとてもよく回復するチャンスは残されているはずです。
そんな方々のお役に少しでも立てたらと私自身も日々精進している次第であります。
まとめ
今にして思うと、あの患者様は大ベテランがいっぱいいる中でなぜ私を指名されたのかなと不思議に思う事もあります。
良い縁であり、若かりし頃のとても貴重な体験でした。
長年施術に関わっていて、諦めずに努力した人にしか成果はついてこないと経験から確信しております。
並々ならぬ努力の末、この患者様はその試練を乗り越え健康な身体を手に入れたのです。
喋れるようになり、普通に犬の散歩が出来るまでに回復した話を聞いていると、諦めない事の大切さを身にしみて感じます。
脳梗塞や脳出血の患者様はこの方に限らず、誰でも回復のチャンスを秘めていると私は考えております。
とうぜん患者様の努力が最重要になるのですが、一人でリハビリを行うのは過酷すぎますので誰かのサポートは必要になってくるでしょう。
私たちは機能訓練指導員という立場で脳梗塞や脳出血の患者様の運動指導を行い、解決の糸口を常に探して施術を行っております。
マッサージ、鍼灸、運動、声掛け、いろんな手段を用いて身体機能の回復を図りたいですよね。